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19話 雪の夜、龍の香

Penulis: 白蛇
last update Terakhir Diperbarui: 2025-11-13 17:02:31
 やがて襖が開き、老神職が盆を手に戻ってきた。湯気がゆらりと立ち上り、炊きたての木椀からほのかな木香が室内を満たした。炭の残り香がまだ室に漂い、木の息と雪の匂いが静かに混じっていた。

「簡素なものですが……お口に合えば」

 盆の上には土器の椀に盛られた粟粥と、干した山菜を塩で和えた小皿、それに湯を張った木椀が添えられていた。まるで神饌しんせんのように質素でありながら、どこか神を祀る息を纏っていた。

「本当に感謝しています」

 瑞礼は深く頭を下げ、盆を受け取った。冷え切った指先に木のぬくもりがじんわりと伝わる。

 火鉢の明かりの傍らで、瑞白はまだ浅い眠りの中にいた。頬に赤い光を受けながら、唇をかすかに開いている。

 瑞礼はしばらくその寝顔を見つめていたが、やがて静かに手を伸ばし、肩をそっと揺すった。

「……瑞白。御神職が温かいものを用意してくれた。少しだけでも口にしてくれ」

 彼女はまぶたを震わせ、ゆっくりと目を開けた。夢と現の狭間で光を探すように、兄の顔を見上げる。

「……兄さま……」

 瑞礼は粥の椀を手にし、匙を掬って息を吹きかけた。湯気の白の奥で、穀の甘香がやわらかく揺れている。

「ほら、少しずつでいい。冷める前に」

 瑞白はおずおずと身体を起こし、兄の手から匙を受け取った。一口ふくむと、わずかな塩気と穀の甘みが舌に広がる。冷え切った身に、ゆるやかなぬくもりが戻っていくのがわかった。そのぬくもりが、胸の奥まで沁みる。遠い夜の太鼓の音がようやく鎮まっていった。

「……あたたかい……」

 その囁きが胸の氷を溶かし、代わりに痛みを残した。

 彼は妹の髪をそっと撫で、微笑を作る。

「よかった。もう少し食べて、それから休むんだ」

 瑞白がうなずくのを見届けてから、瑞礼は改めて老神職に向き直った。

「……この社は、どれほど昔から?」

 瑞礼が問うと、老神職はしばらく思案し、それから静かに答えた。

「この竜泉神社は、遥か古より龍神様を祀る社でございます。山の水脈そのものが御身の衣と伝わっております。人の世よりも前、この山には『水を統べるもの』が座しておられたと申します。

 里の人々はその御方に雨を乞い、豊穣を祈り、この社を建てたのです」

 語る声はまるで祝詞のようで、瑞礼は知らぬうちに息を潜めていた。火鉢の炎がぱちりと鳴り、老神職の顔を淡く照らす
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